ディレクターの言葉

ようこそ 人間の土地へ/北川フラム

15万年前に南アフリカで出現した新人類、ホモ・サピエンスのイヴの子孫たちは、ユーラシア大陸を越えて移動し、4500年前の縄文中期に妻有地域は信濃川の河岸段丘に豊かな生活の場を築いている。人類は食糧を求め、好奇心に駆られ地球上のあらゆる土地でそれぞれの土地や気候の特徴にあわせながら生きた。豪雪、山地という条件のなかで米づくりに励んだ妻有の人々は、「越後」にやって来たここにしか生きられなかった人々を受け入れ、自然環境と折りあいをつけて濃密な世界をつくりあげてきた。まこと「人間は自然に内包される」のだった。

近代から現代にかけての都市化(産業構造の転換、農業の放棄)・効率化・市場原理主義は、グローバル化の波に乗り地域を直撃した。過疎高齢化のなかで地域力は減退し、地域の 展望が持てないかに見えた。しかしこの土地の人は、山深さ、豪雪、少子高齢化、産業構造 の変化をすべて与件として受け入れる。そして、逆にそこにある与件をこそ、越後妻有が人 間の土地であることを示し、他の地域とつながる普遍性として生かせると考える。

もともと地球上には限られた資源しかない。個々人から見れば海は広いし山は深い。しかしそれは有限なものだ。マイナスに思える資源をプラスに変えること、それが「大地の芸術祭 越後妻有アートトリエンナーレ」でアーティスト、建築家がやってきたことだった。こへび隊に参加したサポーターの活躍が、地域・世代・ジャンルを超えたプラットフォームを用意し、協働というコミュニケーションの形を生みだした。

4回にわたる大地の芸術祭に関連して、いくつかの施設ができ、空家・廃校を生かした地域での役割を持った作品が30を超えた。それらの作品は自らが輝きながらも、その立地する地域、その集落、光景の魅力を明らかにする仕掛けだった。アーティストは地域に入って変わりだした。冬を含む四季の歳時記、厳しい地形、互いに手伝いカバーしあうワーキングシェア、収穫の喜びと祭り。美術はここで自然・文明・社会と人間との関係を表すものとして働き出した。アートは人間・自然との関わりのなかで生まれる赤ちゃんのようなものとして働き、扱われ出したのである。越後妻有里山現代美術館[キナーレ]は、世界・現代・地域・里山が交錯する体感空間である。入れ子細工のように、ひとつの地域に世界は埋め込まれている。越後妻有にこの列島のすべてが埋め込まれているのと同じように、越後妻有が埋め込まれた施設となる。まつだい「農舞台」・城山が里山の入れ子であるように、地域全体を体感できる入口を用意する。来館者はここで、信濃川、越後の土、落葉広葉樹、集落、濃密な風景、トンネルなどの土木構造物、縄文土器、吹雪などに世界の同時性が衝突し、覆ってくることにぶつかる。来館者が問うなぜ?どうして?が私たちの願望だ。

この建物はもともと、越後妻有のオアシスにやってくる隊商たちのテントを想定して2003年に作られた。それが10年たってありうべきものにリニューアルされるのは画期的なことである。私たちはここで、美術・美術館の意味が問われることを期待する。

北川  フラム|大地の芸術祭 越後妻有アートトリエンナーレ 総合ディレクター

Photo: Yuichi Noguchi



北川 フラム(アートディレクター)
1946年新潟県高田市(現上越市)生まれ。東京芸術大学卒業。
主なプロデュースとして、「アントニオ・ガウディ展」(1978-1979)、日本全国80校で開催された「子どものための版画展」(1980-1982)、全国194ヶ所38万人を動員し、アパルトヘイトに反対する動きを草の根的に展開した「アパルトヘイト否!国際美術展」(1988-1990)等。
地域づくりの実践として、2000年にスタートした「大地の芸術祭越後妻有アートトリエンナーレ」(第7回オーライ!ニッポン大賞グランプリ〔内閣総理大臣賞〕他受賞)、「水都大阪」(2009)、「瀬戸内国際芸術祭2010、2013」(海洋立国推進功労者表彰受賞)等。
長年の文化活動により、2003年フランス共和国政府より芸術文化勲章シュヴァリエを受勲。2006年度芸術選奨文部科学大臣賞(芸術振興部門)、2007年度国際交流奨励賞・文化芸術交流賞受賞。2010年香川県文化功労賞受賞。2012年オーストラリア名誉勲章・オフィサー受賞。
「大地の芸術祭 越後妻有アートトリエンナーレ」、「瀬戸内国際芸術祭」、「中房総国際芸術祭」の総合ディレクター。
◇現職および公職
公益財団法人福武館財団常任理事、(株)アートフロントギャラリー代表取締役会長、青山学院大学・香川大学・神戸芸術工科大学他客員教授、岡山大学学長特別補佐、(財)地域創造顧問等
http://www.artfront.co.jp

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